一村一品系統の生き残り条件:発生・定着・形骸化のライフサイクル分析
本稿は自主調査のミニペーパー(査読なし)。事例の生存判定は公開情報に基づく編集部評価で、形骸化・消滅は推定を含みます(⚠/✗マーク)。
要旨
一村一品運動は1961年の大山村NPC運動を起点に、県運動化・全国類似運動・海外輸出と3方向に拡散した。本稿ではこのセッションで調査した17系統を「発生・生き残り・形骸化・死亡」の4状態で系統図に落とし、どの系統が何年生き続けたかを可視化する。分析の結果、生き残った系統は「運動体」そのものではなく(a)商品として定着した系(関あじ・かぼす・ゆず・葉っぱ)と(b)海外で国家制度として制度化された系(タイOTOP・中国示範村鎮・ベトナムOCOP・キルギス・フィリピン)に集中した。一方、運動体としての類似運動の多くは形骸化・消滅し、JICA型援助案件は現地の自立組織を作れたかが生死の分かれ目となった。
キーワード:一村一品運動、OVOP、OTOP、地域振興、生き残り分析、Mukai & Fujikura(2015)
1. はじめに
一村一品運動は大分県から全国24道府県・海外30カ国以上に広がったが、広がった系統がすべて生き残ったわけではない。「どの系統が発生し、どれが生き残り、どれが消えたか」を時系列で見ると、運動のライフサイクルの構造が分かる。本稿は別稿の調査レポート1で集めた事例を、発生→生き残り→形骸化→死亡の系統図に整理したものである。
2. 方法
分析対象
調査レポートで確認した系統のうち、発生年と現在の状態が追える17系統を抽出した:原点系3系統(大山村NPC運動・県運動・生き残り商品群)、国内の類似・近縁系4系統、海外への拡散9系統、およびスローガン系統の1件(和泉市父鬼町)。
状態の定義
| 状態 | 記号 | 定義 |
|---|---|---|
| 生き残り | ✓(実線) | 商品・制度・活動が2025年現在も実質的に継続している |
| 形骸化・縮小 | ⚠(点線) | 名称・制度は残るが運動体としての活性を失った、または縮小傾向(推定) |
| 死亡 | ✗ | 運動体として消滅したと判断できる(推定) |
各系統に発生年(●)→状態終了点までの線を引き、1990・2001・2010・2025の4時点をチェックポイントとして、生存している実線の本数を数えた。
3. 結果

系統別の生存状況
| 系統 | 発生 | 2025年時点 |
|---|---|---|
| 大山村NPC運動 | 1961 | ✓ 梅・栗加工として継続 |
| 大分県一村一品運動(全旧町村) | 1980 | ⚠ 2001年ピーク(336品目・約1,400億円)。運動体は形骸化(推定) |
| 大分の生き残り商品群 | 1985頃 | ✓ 関あじ・関さば・かぼす・豊後牛等として定着 |
| 24道府県の類似運動 | 1980s | ✗ 大多数は運動体として消滅(推定) |
| 馬路村・上勝町・川場村・小国町/南小国 | 1980s | ✓ 「逆境→逆転」型として継続 |
| 豊島産廃事件 | 1990 | ✓ 和解→移送完了→アートの島に転生 |
| 和泉市父鬼町の看板 | 2000s | ✓ 不法投棄激減(目的達成) |
| 中国 一村一品→示範村鎮 | 1983 | ✓ 年次認定制度として最大規模 |
| 台湾 OTOP | 1989 | ⚠ 常設店舗は縮小傾向(推定) |
| マレーシア・インドネシア導入 | 1991/1995 | ✗ 定着度低く形骸化(推定) |
| マラウイ OVOP | 1998 | ⚠ 村工場等で細く継続 |
| タイ OTOP | 2001 | ✓ タンボン単位・星格付けで継続 |
| モンゴル OVOP | 2002 | ⚠ 自立組織は限定的 |
| フィリピン OTOP | 2002 | ✓ DTI制度として継続 |
| キルギス OVOP | 2007 | ✓ 2021/22国家プロジェクト化 |
| ベトナム OCOP | 2013 | ✓ 8,478商品認定・拡大中 |
| 和泉市父鬼町(スローガン系統) | 2000s | ✓ |
チェックポイント別の生存数
| 時点 | 実線(生き残り) | ⚠ | ✗ |
|---|---|---|---|
| 1990年 | 4本 | — | — |
| 2001年 | 7本(+大分ピーク336品目) | — | — |
| 2010年 | 10本 | 3本 | 1系統 |
| 2025年 | 9本 | 4系統 | 2系統 |
4. 考察
生き残りの条件は「運動体」ではなく「商品化・制度化」。発生した運動のうち、形が残ったのは「商品として市場に乗った系」(関あじ・かぼす・ゆず)と「国家制度として法制度化・認定化された系」(タイ・中国・ベトナム・キルギス・フィリピン)に集中した。一方、運動体としてのみ存在した系統(24道府県の類似運動の多数・マレーシア・インドネシア導入系)は形骸化・消滅した。
国内と海外で死に方が違う。国内では「運動は死に商品が残る」パターンが支配的(県運動体・類似運動が形骸化する一方、商品は生き残る)。海外では「JICA型援助案件は自立組織を作れたかが分かれ目」(Mukai & Fujikura(2015))——キルギスはOVOP+1を自立させ国家プロジェクトへ、モンゴルは限定的にとどまった。
研究上の含意:山神進・藤本武士(2006)の指摘する内発型開発の持続性と、Kurokawa(2009)の指摘する政府主導格付けの限界は、この生死図で見ると「商品化に成功するか・自立組織を作れるか」という単一軸に整理できる。タイ型(政府主導・格付け)のOTOPが継続しつつ政府依存の課題を残すのも、この軸では「制度化は生き残るが内発性の代償」と位置づけられる。
5. おわりに
一村一品の系統は、発生した運動体そのものより、その実績が商品・市場・国家制度に結晶化できたかで生死が分かれた。「運動を続けること」ではなく「運動の成果が別の形として残ること」が生存の条件だった。
引用文献
- 平松守彦(1982)『一村一品のすすめ』ぎょうせい
- 松井和久・山神進 編(2006)『一村一品運動と開発途上国——日本の地域振興はどう伝えられたか』アジ研選書No.3、日本貿易振興機構アジア経済研究所
- 山神進・藤本武士(2006)「一村一品運動の原点・大山町における地域振興」前掲書 第1章
- Kurokawa, M.(2009)「A comparative study of OVOP movement and OTOP project」Studies in Regional Science 39(4):977–989
- Kurokawa, M., Tembo, F., & te Velde, D.W.(2010)「Challenge for the OVOP movement in Sub-Saharan Africa」JICA Research Institute Working Paper No.18
- Natsuda, K., Igusa, K., Wiboonpongse, A., Cheamuangphan, A., Shingkharat, S., & Thoburn, J.(2011)「One Village One Product—rural development strategy in Asia」RCAPS Working Paper 11-3、立命館アジア太平洋大学
- Mukai, K. & Fujikura, R.(2015)「One village one product: evaluations and lessons learnt from OVOP aid projects」Development in Practice 25(3):389–400
- 足立文彦(2015)「大山町史細見:一村一品運動のモデルはいかにして形成されたか」金城学院大学論集社会科学編11(2):28–46
- 足立文彦(2026)『一村一品運動から地域主権国家の建設へ』星雲社
- Noble, V.(2019)「The One Village One Product movement in Japan」Territory, Politics, Governance 7(4):455–473
脚注
「一村一品運動:各村は何をしたか — 市区町村別の特産・スローガン・研究文献の調査レポート」(2026-10-12、当サイト)↩︎